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相続した土地・空き家を"いつ売るか"で変わる税金の差|名古屋の実例解説

「親から相続した実家、どうすればいいんだろう…」「空き家のまま放置しているけど、税金が心配」——相続不動産を手にした多くの方が、このような悩みを抱えています。
相続した不動産は、売却するタイミングによって税負担が数百万円単位で変わることがあります。特に「相続後3年以内」という期限や「空き家特例」の適用条件を知らずに、本来払わなくてもよい税金を支払ってしまうケースは少なくありません。
この記事では、名古屋市内の実例をもとに、相続不動産を「いつ売るべきか」の判断基準を税制面から詳しく解説します。特例を最大限活用し、損をしない売却タイミングを見極めましょう。
相続後すぐに売るべき?それとも保有すべき?
相続不動産の売却タイミングは、感情面と経済面の両方から判断する必要があります。
感情と経済の狭間で
親の家を手放すことに抵抗を感じるのは、ごく自然な感情です。「思い出が詰まった実家を売るなんて…」と躊躇する方も多いでしょう。
しかし、感情的な理由だけで保有し続けると、経済的な負担が年々増していきます。
保有し続けることで発生するコスト
- 固定資産税・都市計画税:年間10〜30万円程度
- 火災保険料:年間2〜5万円程度
- 光熱費(最低限の維持):年間5〜10万円
- 草刈り・清掃などの管理費:年間10〜20万円
- 老朽化による修繕費:発生時に数十万〜数百万円
名古屋市内の一般的な戸建ての場合、何もせずに保有しているだけで年間30〜50万円程度のコストがかかります。10年間保有すれば300〜500万円の出費です。
早期売却のメリット
相続後早めに売却することには、いくつかの明確なメリットがあります。
税制優遇が受けられる
相続後3年10ヶ月以内に売却すれば「相続税の取得費加算の特例」が適用され、譲渡所得税を大幅に軽減できます。また、一定の条件を満たせば「空き家特例」で最大3,000万円の特別控除が受けられます。
維持コストの削減
前述の通り、保有しているだけで毎年数十万円のコストが発生します。早期売却によりこの負担から解放されます。
資産価値の維持
空き家は人が住まなくなると劣化が急速に進みます。換気や清掃が行われないことで、カビや害虫の発生、設備の故障などが起こりやすくなります。早めに売却すれば、建物価値が残っているうちに売却できる可能性が高まります。
特定空き家のリスク回避
管理が不十分な空き家は、自治体から「特定空き家」に指定されるリスクがあります。指定されると固定資産税の軽減措置が外され、税額が最大6倍に跳ね上がります。
保有を検討すべきケース
一方で、すぐに売却せず保有を検討すべきケースもあります。
将来的な利用計画がある
数年後に自分や子どもが住む予定がある、二世帯住宅への建て替えを検討しているなど、具体的な利用計画がある場合は保有も選択肢です。
賃貸収入が見込める
立地条件が良く、賃貸需要が見込める場合は、賃貸に出すことで収益を得ながら保有できます。ただし、名古屋市内でも郊外エリアでは賃貸需要が限定的な場合があるため、慎重な判断が必要です。
市場価格の上昇が期待できる
再開発計画があるエリアや、リニア開業で価値上昇が期待できるエリアの場合、数年待つことで売却価格が上がる可能性があります。ただし、保有コストと価格上昇幅を比較して判断する必要があります。
空き家特例・3年ルールの概要
相続不動産の売却で最も重要な税制優遇措置を理解しましょう。
相続税の取得費加算の特例
この特例は、相続税を支払った人が相続財産を売却する際、支払った相続税の一部を取得費に加算できる制度です。
適用条件
- 相続または遺贈により財産を取得した人
- その財産を取得した人に相続税が課税されていること
- 相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(通常は相続後3年10ヶ月以内)に売却すること
軽減効果の例
相続財産2,000万円、相続税300万円を支払ったケースを考えましょう。
- 売却価格:2,500万円
- 取得費(相続時評価額):2,000万円
- 譲渡費用:100万円
特例なしの場合
- 譲渡所得:2,500万円 − 2,000万円 − 100万円 = 400万円
- 譲渡所得税(長期20.315%):約81万円
特例ありの場合(相続税300万円を取得費に加算)
- 譲渡所得:2,500万円 − 2,300万円 − 100万円 = 100万円
- 譲渡所得税:約20万円
- 軽減額:約61万円
期限を過ぎてしまうと、この軽減措置が受けられなくなります。
空き家特例(被相続人の居住用財産の3,000万円特別控除)
相続した空き家を売却する際、一定の条件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。
主な適用条件
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
- 相続開始直前に被相続人が一人で居住していたこと
- 相続後から売却まで空き家であったこと
- 相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
- 売却価格が1億円以下であること
- 売却時に以下のいずれかの状態であること:
- 耐震リフォームを実施済み
- 家屋を取り壊して更地にしている
軽減効果の例
- 売却価格:3,500万円
- 取得費:1,000万円
- 譲渡費用:150万円
特例なしの場合
- 譲渡所得:3,500万円 − 1,000万円 − 150万円 = 2,350万円
- 譲渡所得税:約477万円
特例ありの場合
- 譲渡所得:2,350万円 − 3,000万円 = 0円(マイナスは切り捨て)
- 譲渡所得税:0円
- 軽減額:約477万円
この特例を利用するかしないかで、税負担が数百万円単位で変わります。
2つの特例の併用について
残念ながら、「相続税の取得費加算の特例」と「空き家特例」は併用できません。どちらか有利な方を選択する必要があります。
一般的には、譲渡所得が3,000万円以下の場合は空き家特例の方が有利になるケースが多く、それを超える場合は個別に計算して判断する必要があります。
税理士に相談し、自分のケースではどちらが有利かを確認することをお勧めします。
名古屋市内の実例
実際の売却事例から、タイミングの重要性を学びましょう。
守山区:相続後2年で売却し税負担軽減
Eさん(50代・会社員)の事例
守山区の実家を相続したEさん。昭和52年築の木造戸建てで、父親が一人暮らしをしていました。
相続時の状況
- 土地:100㎡
- 建物:築46年、木造2階建て
- 相続税評価額:1,800万円
- 支払った相続税:250万円
Eさんは当初、実家をどうすべきか決めかねていましたが、相続から1年後に空き家特例の存在を知り、期限内に売却することを決断しました。
売却の準備
空き家特例を適用するため、以下の対応を取りました:
- 建物の耐震診断を実施(費用:15万円)
- 耐震基準を満たしていないことが判明
- 建物を解体し、更地として売却することを決定(解体費用:120万円)
売却結果
相続から2年2ヶ月後、土地として売却しました。
- 売却価格:2,200万円
- 取得費:1,800万円
- 譲渡費用:解体費120万円 + 仲介手数料76万円 = 196万円
- 譲渡所得:2,200万円 − 1,800万円 − 196万円 = 204万円
- 空き家特例適用後:204万円 − 3,000万円 = 0円(課税なし)
特例を使わなかった場合の税額
- 譲渡所得税:204万円 × 20.315% = 約41万円
Eさんは空き家特例により約41万円の税金を節約できました。さらに、早期に売却したことで固定資産税や管理費の負担からも解放されました。
成功のポイント
相続後1年の時点で税制優遇措置を知り、3年以内という期限を意識して行動したことが成功につながりました。解体費用はかかりましたが、特例による節税効果の方が大きく、トータルでは有利な結果となりました。
千種区:売却を遅らせて課税額が増加
Fさん(60代・自営業)の事例
千種区の実家を相続したFさん。思い出の詰まった家を手放すことに抵抗があり、売却を先延ばしにしてしまいました。
相続時の状況
- マンション:築35年、3LDK
- 相続税評価額:2,500万円
- 支払った相続税:400万円
- 相続時期:2020年6月
Fさんは「いずれ売却するが、今すぐでなくてもいい」と考え、空き家のまま保有していました。
保有期間中のコスト
- 固定資産税・都市計画税:年間18万円
- 管理費・修繕積立金:年間30万円
- その他維持費:年間10万円
- 年間合計:約58万円
売却の決断
2024年3月、相続から3年9ヶ月が経過したタイミングで、ようやく売却を決意しました。しかし、この時点ですでに「相続税の取得費加算の特例」の期限(3年10ヶ月)まで残り1ヶ月しかありませんでした。
慌てて売却活動を開始しましたが、買主が見つかり、契約・決済が完了したのは相続から4年2ヶ月後でした。
売却結果
- 売却価格:2,600万円
- 取得費:2,500万円
- 譲渡費用:90万円
- 譲渡所得:2,600万円 − 2,500万円 − 90万円 = 10万円
- 譲渡所得税:10万円 × 20.315% = 約2万円
もし期限内に売却できていた場合
- 取得費に相続税400万円を加算可能
- 譲渡所得:2,600万円 − 2,900万円 − 90万円 = マイナス(課税なし)
損失の計算
- 期限切れによる増税:約2万円
- 保有期間のコスト:58万円 × 4年 = 232万円
- 合計損失:約234万円
Fさんのケースでは、税額そのものは少額でしたが、保有期間中の維持費が大きな負担となりました。また、マンションのため建物価値の下落は緩やかでしたが、戸建ての場合はさらに価値が下がっていた可能性があります。
反省点
「いつか売ればいい」という曖昧な判断が、結果的に数百万円の機会損失を生みました。相続直後に税制の知識を得て、明確な期限を設定していれば、この損失は防げたはずです。
損をしないための3つの判断基準
相続不動産の売却で失敗しないために、以下の3つの基準を押さえましょう。
1. 相続登記完了のタイミング
2024年4月から相続登記が義務化されました。相続を知った日から3年以内に登記しないと、10万円以下の過料が科される可能性があります。
売却には相続登記が必須です。登記手続きには通常1〜3ヶ月かかるため、売却を検討している場合は早めに手続きを開始しましょう。
相続登記の流れ
- 戸籍謄本等の必要書類を収集(1〜2週間)
- 遺産分割協議書の作成(相続人間で合意が必要)
- 登記申請(司法書士に依頼が一般的)
- 登記完了(申請から1〜2週間)
相続人が複数いる場合、誰か一人の名義にするか、共有名義にするかを決める必要があります。売却を前提とする場合、代表者一人の名義にした方が手続きがスムーズです。
2. 特例対象期間の確認
税制優遇の期限を正確に把握しましょう。
相続税の取得費加算の特例
- 期限:相続開始日から3年10ヶ月以内
- 計算方法:相続開始日が2021年4月15日なら、期限は2025年2月15日
空き家特例
- 期限:相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで
- 計算方法:相続開始日が2021年4月15日なら、期限は2024年12月31日
空き家特例の方が期限が短いことに注意が必要です。
売却には通常3〜6ヶ月かかります。期限ギリギリではなく、余裕を持って1年以上前から準備を始めることをお勧めします。
3. 市況と税務の両面比較
税制優遇だけでなく、不動産市況も考慮して総合的に判断しましょう。
税制優遇を優先すべきケース
- 譲渡所得が大きく、特例による節税額が数百万円規模になる
- 不動産市況が横ばいまたは下落傾向
- 建物の老朽化が進み、価値の下落が見込まれる
市況を優先すべきケース
- 近隣で大型再開発が進行中で、価格上昇が確実視されている
- 譲渡所得が少なく、税制優遇のメリットが限定的
- リニア開業など明確な価値上昇要因がある
名古屋市内では、名駅周辺や栄など都心部では再開発による価格上昇が期待できるエリアもあります。一方、郊外エリアでは人口減少による価格下落リスクがあります。
判断に迷う場合は、以下の計算をしてみましょう:
保有による予想上昇額 − 保有コスト − 税制優遇の喪失額 = 正味メリット
この正味メリットがプラスなら保有継続、マイナスなら早期売却が合理的な選択です。
まとめ:期限を意識した計画的な売却が鍵
相続不動産の売却で損をしないためには、以下のポイントが重要です。
すぐに確認すべきこと
- 相続開始日の確認(税制優遇の期限計算のため)
- 空き家特例の適用要件を満たすか(昭和56年5月31日以前の建築か)
- 相続税を支払ったか(取得費加算特例の対象になるか)
- 現在の市場価格(不動産会社に査定依頼)
売却タイミングの判断基準
- 譲渡所得が大きい場合:3年10ヶ月以内の売却を優先
- 空き家特例の対象:3年以内、かつ建物解体または耐震工事の準備
- 市況上昇が期待できる場合:税制優遇と比較して判断
- 利用予定がない場合:維持コストを考慮し早期売却を検討
注意すべきポイント
- 売却には3〜6ヶ月かかる(期限ギリギリは危険)
- 空き家特例には耐震基準クリアまたは解体が必要
- 相続人が複数いる場合は早めに合意形成を
- 専門家(税理士・司法書士)への相談も検討
相続不動産は、感情的な理由で判断を先延ばしにしがちです。しかし、税制優遇には明確な期限があり、維持コストも日々発生しています。
「いつか考えよう」ではなく、相続後すぐに専門家に相談し、自分にとって最適な売却時期を見極めましょう。計画的な対応が、数百万円の差を生み出します。
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監修者情報

悠久ホームサービスは名古屋市に根差した地域密着型の不動産会社です。専門知識を持つスタッフが、売買・相続・贈与・空き家活用など幅広くサポートし、お客様一人ひとりに合わせた解決策をご提供します。購入や売却の後も丁寧にフォローし、安心してお任せいただける体制を整えています。名古屋市で不動産相続や売却をお考えの際は、ぜひ当社にご相談ください。
代表取締役 山内 章寛
